アスベスト健康被害とは?病気を発症した方が取るべき対処法や補償も詳しく解説
更新日:2024年08月13日
この記事でわかること
- アスベスト健康被害の具体的な内容
- アスベスト健康被害を受ける可能性のある方
- アスベストで病気を発症した方が受けられる補償
アスベストは、耐火・耐熱、耐摩耗、防音といった特性を生かし、日本では建材、ボイラーや配管ブレーキ材、教室などに広く使われてきました。
しかし、アスベストを吸い込んだことによる健康被害が多発したため、アスベストの使用は禁止され、仕事でアスベストを取り扱っていた方々に対する救済制度が設けられました。
アスベストによる健康被害は、吸い込んでもすぐには症状が出ず、通常、数十年という長い潜伏期間を経てから重篤な病気を発症します。
本コラムでは、アスベスト健康被害について具体的にご紹介するとともに、アスベストが原因で病気になった可能性のある方が取るべき対処法や、アスベスト健康被害で受け取れる補償などについても解説していきます。
- 目次
アスベスト健康被害とは
アスベスト(石綿)とは、繊維状の天然鉱物の総称で、「せきめん」もしくは「いしわた」とも呼ばれています。
アスベストはほぐすと綿のようになり、その繊維は極めて細く、耐熱性、耐久性、耐摩耗性、耐腐食性、絶縁性などに優れています。そして、このような特性から、建材などのさまざまな工業製品の原材料に使用されていました。
アスベストで健康被害が起きる理由
いろいろな特性を生かして使用されていたアスベストですが、その極めて細かい繊維は空中に浮遊しやすいため、人が吸い込んでしまうおそれがあります。また、アスベストは丈夫で変化しにくく、いったん吸い込まれると肺の組織内に長くとどまって、肺がん、悪性中皮腫などの健康被害を引き起こすと考えられています。
工場などでの加工作業や建設現場での吹付作業の現場では、大量のアスベスト粉じんが発生していました。にもかかわらず、作業者が粉じんを吸引してしまうのを防止する措置は取られておらず、国も工場に適切な措置を義務付けるなどの規制をしていませんでした。
そのため、工場や建設現場でアスベストを扱っていた方々は、アスベストの危険性を知らずに浮遊した粉じんを吸い込み続けました。そして、当時から数十年経った今、健康被害者が急増しているのです。
以上のようなことが明らかになったことで、ビルなどの建築工事において行われていた石綿吹き付け作業の原則禁止が1975年より開始されました。2004年には工業製品の製造等も段階的な禁止が始まり、現在では石綿吹き付け作業およびアスベスト製品の製造等は全面的に禁止されています。
アスベストを吸い込んだ場合、人体にどんな影響があるのか
アスベストを吸い込んでも、一部は痰などによって体外に排出されます。しかし、肺の深部まで入り込んでしまった場合、体内で分解や排出ができないまま、肺の組織内に蓄積されていくのです。
そして、吸い込んでもすぐには症状が出ず、数十年という長い潜伏期間を経てから重篤な病気を発症させる危険性があります。
アスベストが原因で発症する可能性のある病気
WHO(世界保健機関)の報告によると、アスベストの繊維は、肺線維症(じん肺)や悪性中皮腫の原因になると言われ、肺がんを引き起こす可能性があるとされています。
アスベストは、吸ってしまってもすぐに症状が出ることはほとんどありません。ですが、長い潜伏期間のあと何らかの症状が出たときには、病気が進行している可能性があります。
下記で詳しく解説します。
- 1. 石綿肺
- 2. 肺がん(原発性肺がん)
- 3. 中皮腫
- 4. びまん性胸膜肥厚
- 5. 良性石綿胸水
1. 石綿肺
石綿肺は、アスベストを大量に吸い込むことにより、肺が線維化する肺線維症(じん肺)という病気の一つです。石綿肺の初期症状としては、軽い息切れや運動能力の低下、咳や痰が多く見られ、進行するにつれて呼吸が困難となり、重度の息切れや呼吸不全が起こる場合もあります。潜伏期間は15年~20年と言われています。
2. 肺がん(原発性肺がん)
原発性肺がんは気管支あるいは肺胞を覆う上皮に発生する悪性の腫瘍です。原発性肺がんの症状としては、咳、痰、血痰、胸の痛み、動いたときの息苦しさ、発熱といった症状がよく見られます。また、アスベストの吸引と喫煙の2つが重なった場合、肺がんになる危険性が高くなると言われています。
通常、アスベストの吸引から原発性肺がんを発症するまでの潜伏期間は30 ~ 40年と長く、吸い込んだアスベストの量が多ければ多いほど、肺がんになる危険性が高くなることが指摘されています。
3. 中皮腫
中皮腫とは、肺を覆っている胸膜、肝臓や胃などの臓器を覆っている腹膜、心臓および大血管の起始部を覆っている心膜などに発生する悪性腫瘍(がん)のことです。
悪性中皮腫の約8割を悪性胸膜中皮腫が占めており、約2割弱が悪性腹膜中皮腫、残りがその他の部位からの発症です。
中皮種の症状としては、胸膜中皮腫では、胸痛や咳、呼吸困難や胸部圧迫感が多く見られ、発熱や体重減少が見られることもあります。
腹膜中皮腫は、早期には症状が出ず、進行した場合に腹水貯留によるお腹の張り、腹痛、腰痛、食欲低下、排便の異常、腹部のしこりなどが見られることがあります。
中皮腫の潜伏期間は20~50年と言われています。
4. びまん性胸膜肥厚
びまん性胸膜肥厚とは、肺を覆う胸膜が慢性的に炎症を起こし、線維化して厚くなる病気です。比較的高濃度のアスベストにさらされた場合に発症すると言われています。胸膜の線維化は徐々に広がっていくのが特徴です。
びまん性胸膜肥厚の初期症状としては無症状のことが多く、あっても軽度の運動時の息切れ程度です。ただ、病気の進行するに従って肺の動きが悪くなり、呼吸困難、反復性の胸痛、反復性の呼吸器感染などが見られるようになります。
びまん性胸膜肥厚の潜伏期間は30~40年と言われています。
5. 良性石綿胸水
良性石綿胸水とは、胸腔内に胸膜炎による胸水が貯まることです。
比較的高濃度のアスベストを吸い込んだ場合に発症するとされていますが、胸水は自然に消失することもあれば、長期にわたって残る場合もあり、診断が難しい病気です。
良性石綿胸水の症状としては、呼吸困難や胸の痛みがある場合もあれば、自覚症状がない場合もあります。約半数の方は胸水が自然に消失して治癒しますが、なかには何度も繰り返すことでびまん性胸膜肥厚が発生し、呼吸機能障害をきたす方もいます。
良性石綿胸水の潜伏期間は10年~40年以上と言われています。
アスベスト健康被害を受ける可能性のある方
アスベスト健康被害を受ける可能性があるのは下記の方々です。
1. 仕事でアスベストを取り扱っていた方
アスベストにさらされる作業を行っていた方々は、アスベストによる健康被害を受ける可能性があります。下記では、該当する方の例をご紹介します。
- 石綿鉱山でアスベストの採掘作業をしていた方
- 工場でアスベストの断熱作業をしていた方
- 工場でアスベスト製品を製造・加工していた方
- 造船所や車両工場などでアスベストを扱っていた方
- アスベストを含有する建材を使用して建設作業を行っていた方
- アスベストの運搬を行っていた方
など
より詳しい情報を知りたい方は厚生労働省のWebサイトをご覧ください。
2. 1.のご家族の方
仕事でアスベストを扱っていた方のご家族もアスベストにさらされている危険性があります。
たとえば、次のようなケースが想定されます。
- アスベスト工場で働く方の作業着を毎日洗濯していた方
- アスベストが入っていた袋を自宅に持ち帰って使用していた方
3. 石綿工場の近隣の住人の方
石綿工場や石綿鉱山の周辺に居住していた方についても、アスベストにさらされていた危険性が考えられます。
例としては、尼崎市の石綿工場の周辺に約20年居住していた方々が、工場から排出されたアスベストの粉じんを吸い込んだ結果、胸膜中皮腫にかかった事件があります。
アスベスト健康被害を受けた方が取るべき対処法
アスベストによる健康被害を受けた方が取るべき対処法をご案内します。
1. 病院で必要な検査をする
アスベストを吸い込んだ可能性のある方は、定期的に健康診断を受け、胸部X線検査を受けるようにしましょう。健康診断のみでは発見が難しい場合もあるため、専門的な医療機関でがん検診などを受けることをおすすめします。
なお、お仕事でアスベストを取り扱っていた方で、所定の要件を満たす方は、健康管理手帳の交付を受けられます。健康管理手帳が交付されると、指定された医療機関で年に2回無料で定められた項目の健康診断を受けることが可能です(じん肺の健康管理手帳については年に1回)。
ぜひ参考にされてください。
また、発症した方は早急に医療機関等で診察を受けたうえで、治療を開始してください。特に、下記のような症状に覚えがある方は、早急に医療機関等で診察を受けましょう。
<注意したい症状>
- 息切れがひどくなった
- せきやたんが以前に比べて増えた
- たんの色が変わった
- たんに血液が混ざった
- 顔色が悪いと注意された
- 爪の色が紫色に見える
- はげしい動悸がする
- 風邪をひいて、なかなか治らない
- 微熱が続く
- 高熱が出た
- 寝床に横になると息が苦しい
- 食欲がなくなった場合や急にやせた
- やたらに眠い
2. アスベスト健康被害で国から受け取れる補償を調べ申請する
アスベストによる健康被害を受けた方は、一定の要件を満たしていれば、下記の補償を国から受けられる可能性があります。
<アスベスト健康被害の被害者が受けられる補償>
なお、具体的な内容については後ほど詳しくご案内します。
3. アスベスト健康被害に詳しい弁護士へ相談する
アスベスト健康被害の給付金や賠償金を受け取るためには、必要な書類を準備したうえで適切な手続を行う必要があります。
もちろん、ご自身で行うことも可能ですが、証拠集めや申請手続は複雑で時間がかかりますし、工場で働いていた方であれば裁判所に対して訴訟を提起しなければなりません。
スムーズに手続を完了し、適切な補償を受け取るためには、アスベスト健康被害に詳しい弁護士に相談されるのが得策です。
アスベスト健康被害を受けた方が国から受けられる補償
アスベストを吸ったことが原因で発病した方が国から受けられる補償を、簡単にまとめてご紹介しています。
- 建設アスベスト給付金
- 工場型アスベスト賠償金
- 労災保険による給付
- 石綿健康被害救済制度による給付
建設アスベスト給付金
【対象者】
- 吹付作業、建設作業等でアスベストを含む建材を扱う建設現場で働いた方で、かつ下記の要件を満たす方
- 上記の方々のご遺族
【要件】
【受け取れる金額や内容など】
病態に応じて、550万円~1,300万円の給付金が受け取れる
工場型アスベスト賠償金
【対象者】
大阪泉南アスベスト訴訟の最高裁判決に基づき、下記の要件を満たす元労働者もしくはそのご遺族の方
【要件】
【受け取れる金額や内容など】
病態に応じて、550万円~1,300万円の賠償金が受け取れる
労災保険による給付
【対象者】
アスベスト(石綿)を取り扱う仕事などをしていた関係で、アスベスト粉じんにさらされて吸い込み、病気を発症した労働者の方やそのご遺族の方
【要件】
現在働いている方および以前働いていた方が、業務中にアスベスト(石綿)を吸い込んだことが原因で石綿肺、肺がん、中皮腫などの病気になったり、亡くなられたりしたことが、「仕事による疾病である」と労働基準監督署から認められたこと
【受け取れる給付】
療養補償給付、休業補償給付、傷病補償年金、障害補償給付、介護補償給付、遺族補償給付、葬祭料
石綿健康被害救済制度による給付
【対象者】
労災保険の対象とならない石綿健康被害者の方(石綿を扱う仕事をしていたかどうかは問わない)や、そのご遺族の方
【要件】
日本国内においてアスベストを吸入することにより指定疾病で療養中の方または指定疾病でお亡くなりになった方のご遺族である旨の認定を、独)環境再生保全機構から受けること
【受け取れる給付】
医療費、療養手当、葬祭料、特別遺族弔慰金・特別葬祭料、救済給付調整金
なお、時効により労災保険による遺族補償給付を受けられなくなった労働者のご遺族に支給されるものとして、石綿健康被害救済制度に基づく「特別遺族給付金」があります。
まとめ
本コラムのまとめは下記のとおりです。
- アスベストの吸入により、数十年の潜伏期間を経て、石綿肺や肺がんなどの重篤な疾病を発症する可能性がある
- アスベストが原因で発症する可能性のある病気としては、石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水の5つがある
- 仕事でアスベストを取り扱っていた方に加え、そのご家族の方や石綿工場の近隣の住人の方のなかにもアスベスト健康被害を受けた方がいる
- アスベスト健康被害を受けたら、医療機関で診察を受け治療すること
- アスベストで病気を発症した方が国から受けられる補償としては、建設アスベスト給付金、工場型アスベスト賠償金、労災保険による給付、石綿健康被害救済法に基づく給付の4つがある
- アスベスト健康被害に詳しい弁護士へ相談するのがおすすめ
アディーレ法律事務所では、工場型アスベスト訴訟や建設アスベスト給付金の請求手続に関し、相談料、着手金ともにいただかず、原則として報酬は給付金・賠償金受け取り後の後払いとなっております。
そのため、当該事件をアディーレ法律事務所にご依頼いただく場合、原則としてあらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
詳しくは「弁護士費用」をご覧ください。
アスベストで病気になった可能性のある方やアスベスト被害にあわれた方またはそのご遺族の方は、アスベスト健康被害に積極的に取り組んでいるアディーレ法律事務所にお気軽にお問い合わせください。
アスベスト健康被害に関するご相談は何度でも無料です。