国とアスベスト工場の作業員が遅延損害金の起算日について争った事例
※集団訴訟の場合は、全ての原告の認容合計額を記載しています。
概要
この事件は、アスベスト(石綿)工場で働いていた人(労働者)が、アスベストを吸い込んだことにより肺がんを発症したものです。
労働者側は、国が労働基準法に基づいてアスベスト工場に局所排気装置を設置するように命じる義務を怠ったため、肺がんになったと主張しました。そして、国に対して慰謝料と弁護士費用を含む1,265万円と肺がんの診断を受けた日からの遅延損害金の支払いを求めています。
福岡地方裁判所小倉支部の判断は、上記の労働者側の請求を認めましたが、国はこの決定に不服があり、控訴することにしました。
裁判のポイント
遅延損害金の起算日
- 遅延損害金の起算日を「肺がん診断日」と「労災認定時」のどちらにすべきか
労働者側の主張
- 肺がんの診断日(平成20年9月26日)から遅延損害金を計算すべき
- 石綿肺とは異なり、肺がんは行政上の決定がなければ損害の発生が認められないというものではなく、診断日を起算日とするのが適当である
国の主張
- 大阪高裁平成25年判決では、最も重い行政上の決定日(労災の認定日)または死亡日を遅延損害金の起算日としている
- ほかの多くの事例で、労災の認定日を遅延損害金の起算日としている。労働者側だけ異なる扱いをするのは公平でない
- 肺がんの診断だけでは、それがアスベストに起因するかどうかが明確にならない
裁判所の判断
裁判所は、「労災認定日が遅延損害金の起算日である」という国の主張を認めませんでした。そして、労働者側の請求を一部認め、国は労働者側に対して1,265万円およびその遅延損害金を支払うべきと判断しました。
また遅延損害金の起算日は、慰謝料1,150万円に対しては平成23年12月29日(企業和解金が支払われた日の翌日)、弁護士費用115万円に対しては平成20年11月7日(肺がんの診断日)からとしました。
裁判所は損害が確定するのは、肺がんの医学的診断が確定した日であるとし、労働者側が平成20年11月7日に確定診断を受けたことを認めました。
国の主張する労災認定日を起算日とする理由は採用されませんでした。
※本ページで紹介している事例は、当事務所が実際に対応したものではありません。